ガバメントクラウド移行は本当にコストを下げるのか
税金、外資クラウド、国産クラウド、地場ベンダーの視点で考える
ガバメントクラウドは、行政システムの基盤を近代化する大きな取り組みです。
デジタル庁は、最新クラウド技術を活用できる環境を、ベストプラクティスに基づく標準的な環境として提供し、政府や地方自治体のアプリケーション開発を現代的なものにしていくと説明しています。
方向性としては理解できます。
クラウドを使えば、セキュリティ水準を上げやすい。災害対策もしやすい。インフラ運用を標準化できる。将来的には、開発や運用の効率化につながる可能性もあります。
しかし、現場目線では「本当にコストは下がるのか」という疑問があります。
これまで自治体は、オンプレミス環境、地域のデータセンター、自治体クラウド、ベンダー独自のクラウドなど、さまざまな形でシステムを運用してきました。中には、すでに共同化や地場ベンダーの支援によって、費用を抑えていた自治体もあります。
そこから、指定されたガバメントクラウド環境へ乗り換える場合、単純に「クラウドだから安くなる」とは限りません。
実際、デジタル庁資料でも、標準化・ガバメントクラウド移行後の運用経費について、地方団体から大幅に増加するという懸念の声があると示されています。中核市市長会の調査では、移行後の運用経費が平均2.3倍、最大5.7倍になっている状況も示されています。
コストが増える理由は、現場感覚としても理解できます。
- 接続回線費が増える
- 移行前後で二重運用が発生する
- クラウド対応できる人材が必要になる
- 監視、バックアップ、セキュリティ設計が複雑になる
- 標準化対応とクラウド移行が同時に来る
デジタル庁資料でも、ガバメントクラウド接続回線費、二重の基盤・ネットワーク管理費用、クラウド最適化が十分でないこと、クラウド対応に必要な作業員単価の増加、人口規模等に応じた柔軟な料金設定の難しさなどが、運用経費増加の要因として整理されています。
これでは、クラウド化そのものが悪いわけではなくても、短期的には負担が増えます。
さらに気になるのが、クラウド事業者の構成です。
令和8年度募集分のガバメントクラウド対象クラウドサービスとして選定されたのは、Amazon Web Services、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructure、そして、さくらインターネット株式会社が提供する「さくらのクラウド」です。
つまり、外資クラウド4つに対し、国産クラウドは「さくらのクラウド」1つです。
ここは正確に書くなら、「さくらインターネットのクラウド」ではなく、さくらインターネットが提供する『さくらのクラウド』です。
デジタル庁は、「さくらのクラウド」について、すべての技術要件を満たしたことを確認し、2026年3月27日以降、本番環境の提供が可能になったと公表しています。
さくらインターネットも、2023年11月に国産クラウドとして初めて条件付きで採択され、2026年3月に305項目すべての技術要件への適合が確認されたことで、正式採択されたと発表しています。
これは非常に大きな一歩だと思います。
もちろん、AWS、Azure、OCI、Google Cloudには実績があります。対応できるエンジニアも多く、サービスも豊富です。短納期で移行するなら、実績のあるクラウドを選びたくなるのは自然です。
実際、ガバメントクラウド利用ではAWSの存在感が大きいと報じられています。ITmediaは、デジタル庁資料や説明をもとに、国の情報システムの約85%がAWS上で稼働し、地方自治体でも約80%がAWSを採用していると報じています。
AWSが多く選ばれる理由は理解できます。
しかし、公共システムの基盤が特定の外資クラウドに大きく依存することには、税金の使われ方という観点からも議論が必要です。
- 日本の行政システムを動かす基盤に、どのクラウドを選ぶのか
- その利用料は国内にどれだけ還元されるのか
- 国内事業者が育つ余地はあるのか
- 将来的な価格交渉力や技術主権は確保できるのか
これは単なる技術選定ではなく、公共インフラの設計思想の問題です。
国産クラウドが選択肢に入ることには意味があります。さくらインターネットの代表コメントでも、行政分野におけるクラウドは社会基盤であり、国内クラウドを含めた多様な選択肢が広がることは、日本全体のデジタル基盤の強化につながると述べられています。
個人的にも、さくらインターネットには頑張ってほしいと思います。
国産クラウドが強くなれば、選択肢が増えます。選択肢が増えれば、競争が生まれます。競争が生まれれば、価格、サービス品質、サポート、国内事情への対応力も改善される可能性があります。
もう一つ見落とせないのが、地場ベンダーの存在です。
小さな村や町のシステムは、地域に根ざしたIT会社が支えてきたケースもあります。役場の業務を知り、職員の顔を知り、電話一本で相談できる。仕様書には書かれていない運用の事情まで分かっている。
こうした支援は、単なる保守契約以上の価値があります。
しかし、標準化やガバメントクラウド移行に対応できない地場ベンダーが撤退すれば、小規模自治体は「近くにいて相談できる会社」を失う可能性があります。
- 大手ベンダーのコールセンターに問い合わせる
- チケットを起票する
- 回答を待つ
- 地域の事情を一から説明する
これでは、システムは近代化しても、サポートは遠くなるかもしれません。
ガバメントクラウドは、単にクラウドへ移行する話ではありません。
税金で支える行政システムの基盤を、どの事業者に、どの思想で、どのコストで任せるのかという話です。
クラウド化すれば安くなる。標準化すれば効率化する。
そう単純に受け止めるのではなく、その裏側でどのようなコストが発生し、誰にお金が流れ、誰が運用負荷を背負うのか。
現場SEとしても、市民としても、この点には一石を投じる価値があると思います。
