官製デスマーチはなぜ起きるのか
標準化と一律化を混同すると、現場SEが壊れる
システム開発の現場には、「デスマーチ」という言葉があります。
無理なスケジュール、足りない人員、増え続ける仕様変更、終わらないテスト。現場SEが疲弊しながら、なんとか納期に間に合わせようとする状態です。
通常、デスマーチというと、民間企業の無理な開発プロジェクトを想像しがちです。しかし、実際の現場では、国の制度変更や標準化対応によって発生する「官製デスマーチ」もあります。
たとえば、自治体基幹業務システムの標準化です。デジタル庁は、住民基本台帳、固定資産税、個人住民税、介護保険、国民健康保険など、20の標準化対象事務を示しています。
標準化そのものは、必要な取り組みだと思います。
データ形式をそろえる。連携方式をそろえる。共通仕様を整備する。将来的な保守性を高める。こうした方向性は間違っていません。
問題は、標準化の進め方です。
プロジェクトを進めるうえでは、コスト、納期、品質のバランスが重要です。納期を短くするなら、人を増やす、範囲を減らす、段階移行にする、品質リスクをどう管理するかを決める必要があります。
しかし、現場では「期限は守る」「品質も落とせない」「追加コストも簡単には増やせない」という状態になりがちです。
この3つをすべて固定したまま進めようとすると、最後に壊れるのは現場SEです。
- 仕様が固まらないまま設計する
- 設計が固まらないまま製造する
- 製造しながらテストする
- テストしながら仕様変更が来る
- リリース直前にQAが増える
これでは、いくら優秀なSEでも消耗します。
実際、デジタル庁は、標準準拠システムへの移行が2026年度以降にならざるを得ない「特定移行支援システム」の理由として、メインフレーム、個別開発システム、現行事業者の撤退、事業者のリソースひっ迫などを挙げています。また、2026年3月末時点で、移行対象34,366システムのうち10,013システム、29.1%が特定移行支援システムになっています。
これは、現場の根性不足ではありません。
制度、期限、コスト、品質、人材リソースのバランスが合っていないのです。
さらに重要なのが、「標準化」と「一律化」の違いです。
村、小規模な町、中規模の市、政令指定都市では、人口も業務量も職員数も処理件数も大きく異なります。基本的な制度や業務ルールは共通でも、実際のシステム規模や運用負荷はまったく違います。
それにもかかわらず、すべての自治体に同じ規模感のシステムや運用を求めると、かえってコストが高くなる可能性があります。
本来の標準化は、「全員に同じ重さのシステムを持たせること」ではないはずです。
共通化すべき部分は共通化する。規模に応じて変えるべき部分は変えられるようにする。
この考え方が重要です。
デジタル庁の資料でも、自治体の規模や業務の性質、リスク受容方針等に応じて、自治体が自らの裁量でレベルを選択できるようにする見直しが行われています。
つまり、国の側も「すべてを完全に同じにするだけでは難しい」という課題は認識しているはずです。
標準化は必要です。しかし、一律化は危険です。
期限を守ることも大切です。しかし、期限だけを強く握ると、コスト、品質、人が壊れます。
本当に必要なのは、システムを標準化することだけではありません。現場SEが潰れない進め方を標準化することです。
日本の行政DXを進めることは重要です。
しかし、その裏側でSEが消耗し続けるなら、それは持続可能なDXではありません。
標準化とは、すべてを同じにすることではなく、共通化すべきところをそろえ、違いを認めるべきところは調整できるようにすること。
そのバランスを失ったとき、標準化は改善ではなく、現場SEを追い詰めるプロジェクトになってしまうのだと思います。
