上位職ではないのに上位職の仕事を任される問題|役割と責任は一致しているべきか
結論:チャレンジは必要。でも、責任と役割がズレ続けるのは危ない
SEの現場では、役職が上がっていないのに、上位職のような仕事を任されることがあります。
たとえば、後輩の面倒を見る。進捗をまとめる。レビューをする。課題管理をする。他チームと調整する。上司の代わりに状況を整理する。
本人の肩書きはまだ担当者。しかし、やっていることはリーダー寄り。
こういう状態は、成長機会としては意味があります。ただし、長く続くと不満が出ます。
「まだその役職じゃないのに、なぜそこまでやらないといけないのか」「責任だけ増えて、評価や待遇は変わらないのか」「上位職の仕事をやるなら、ちゃんと役職も上げてほしい」
こう感じるメンバーは一定数います。そして、場合によっては上位職寄りの作業を断られることもあります。
これは単なるわがままではなく、役割と責任のズレから起きる自然な反応だと思います。
昇格前に上位職の仕事を任せる理由
管理者側の立場で考えると、昇格前に上位職の仕事を任せる理由も分かります。
次の役職を任せられるか見たい。いきなり昇格させて失敗すると困る。まずは小さくリーダー業務を経験してほしい。現場として、その人に頼らざるを得ない。今の役職以上の力があるなら、少し上の仕事もやってほしい。
これは現実的にはよくあります。
昇格は、単に年数が経ったからするものではありません。次の役割を担えそうか。周囲を巻き込めるか。自分の作業だけでなく、チームを見られるか。こうしたことを確認したくなるのは自然です。
つまり、上位職の作業を少し任せること自体は、必ずしも悪いことではありません。
問題は、その状態が曖昧なまま続くことです。
メンバーが不満を持つ理由
メンバーが不満を持つのは、責任と評価が一致していないと感じるからです。
担当者の給与。担当者の肩書き。担当者としての評価枠。でも実際の仕事はリーダー。
これは、かなりモヤモヤします。
しかも、上位職の仕事は目に見えにくい負荷が多いです。
人に説明する。進捗を確認する。相談を受ける。レビューする。課題を拾う。関係者と調整する。トラブル時に前に出る。
これらは、単純な作業時間だけでは測れません。自分の作業時間が削られるうえに、精神的な負荷も増えます。
その結果、本人からするとこう感じます。
「仕事は増えた」「責任も増えた」「でも評価されているか分からない」「役職は変わらない」「それなら断りたい」
これは、ある意味で当然です。
役職は担当者なのに、責任だけリーダー。これは、ゲームでいうと装備は初期装備なのに、いきなり中ボス戦に出されるようなものです。勝てる人もいますが、せめて盾くらいは支給してほしいところです。
今の役職ができているなら、上位職に上げてもよいのではないか
個人的には、今の役職で求められることを十分にこなせているなら、上位職へチャレンジさせてもよいのではないかと思います。
もちろん、いきなり全員を昇格させればよいという話ではありません。ただ、上位職の仕事を実質的に任せているなら、それに見合う役割や責任を明確にするべきです。
昇格してから初めて上位職の仕事をするのか。上位職の仕事をある程度できるようになってから昇格するのか。
現実には後者が多いと思います。ただし、後者にするなら、「どこまでできれば昇格なのか」を明確にしないと不公平感が出ます。
上位職の仕事を任せるなら、次のような説明が必要です。
- これは次の役職に向けたチャレンジである。
- どの期間で見るのか。
- 何ができれば評価につながるのか。
- 負荷が増える分、今の作業量は調整するのか。
- 本人が希望しているのか。
- 失敗した場合、どう支援するのか。
ここが曖昧だと、成長機会ではなく、ただの便利な人扱いになってしまいます。
降格も含めて、役割を見直せる仕組みがあってよい
日本の職場では、昇格は重く、降格はかなりネガティブに見られがちです。
そのため、会社側も慎重になります。
「昇格させたけど合わなかったらどうするのか」「一度上げたら戻しにくい」「本人のモチベーションが下がるのでは」
こう考えるのも分かります。
ただ、本来は上位職にチャレンジして、合わなければ役割を見直す仕組みがあってもよいと思います。
管理職やリーダーに向いている人もいれば、技術者として力を発揮する人もいます。上位職に上がることが、すべての人にとって正解とは限りません。
だからこそ、昇格は一方通行ではなく、役割の適性を見ながら調整できる方が健全です。
もちろん、降格という言葉は重いです。ただ、実際には「役割変更」「専門職ルートへの変更」「リーダー業務から技術業務へ戻る」など、前向きな形で設計できるはずです。
大事なのは、失敗した人を責めることではありません。合う役割に配置し直すことです。
管理者側がやるべきこと
管理者側が上位職の仕事を任せるなら、まず目的を伝えるべきです。
「なぜこの作業を任せるのか」「成長機会なのか」「一時的な代行なのか」「昇格候補として見ているのか」「評価にどうつながるのか」
ここを伝えないと、本人は不安になります。
また、作業量の調整も必要です。
通常作業を100%持ったまま、追加でリーダー業務を乗せると、だいたい苦しくなります。これは成長機会というより、荷物の上にさらに荷物を積む状態です。
上位職の作業を任せるなら、通常作業を減らす。支援者をつける。相談の場を作る。評価に反映する。
ここまでセットで考えるべきです。
メンバー側がやるべきこと
一方で、メンバー側も、上位職の仕事をすべて拒否するのが最適とは限りません。
将来的に昇格したいなら、上位職寄りの経験は必要です。進捗管理、レビュー、調整、後輩支援は、経験しないと身につきません。
ただし、黙って抱え込む必要はありません。
任されたときは、次のように確認するとよいです。
今回の作業は、次の役職に向けたチャレンジとして任されている認識でよいでしょうか。
通常作業と並行すると負荷が高くなるため、優先順位や作業量を相談したいです。
また、この役割が評価上どのように扱われるのかも確認したいです。この聞き方なら、単なる拒否ではなく、役割と評価の確認になります。
「やりたくありません」ではなく、「役割・負荷・評価を明確にしたいです」と伝えることが大切です。
最適解はどちらか
上位職ではない人に、上位職の仕事を任せること自体は悪くありません。むしろ、成長や昇格判断には必要な場面もあります。
ただし、最適解は「黙ってやらせること」ではありません。また、「役職が上がるまで一切やらない」でもありません。
現実的な最適解は、次の形だと思います。
今の役職を十分こなせている人に、
上位職の役割を期間・範囲・評価条件を明確にして任せる。
そのうえで、成果を見て昇格や役割変更につなげる。つまり、チャレンジとして任せる。ただし、責任・役割・評価を曖昧にしない。
これが大事です。
まとめ
上位職ではないのに上位職の作業を任されることに、不満を持つメンバーはいます。それは自然なことです。
なぜなら、責任だけ増えて、役職や評価が変わらないように見えるからです。
一方で、昇格前に上位職の仕事を経験すること自体は必要です。上位職の仕事は、実際にやってみないと向き不向きも分かりません。
だからこそ、必要なのは曖昧な押し付けではなく、明確なチャレンジ設計です。
今の役職が十分できている。上位職に挑戦する意思がある。任せる範囲が明確である。評価につながることが分かっている。負荷調整がされている。合わなかった場合の役割見直しもできる。
こうした状態であれば、上位職の仕事を任せることは、本人にとっても組織にとっても意味があります。
責任と役割は大切です。そして、役割を任せるなら、評価と支援もセットにするべきです。
上位職の仕事を「やらされている」と感じるのか。それとも「次に進むためのチャレンジ」と感じるのか。
その差は、任せ方と説明の仕方で大きく変わると思います。
このテーマは、前に作った「技術者から管理者になるのは良いことか」と「現場SEと管理者のあいだ」シリーズの橋渡し記事にできます。
